3.02.2012

不思議な羅針盤/梨木香歩


梨木香歩さんといえば有名な作品は『西の魔女が死んだ』。
私も大好きな作品で、そこからいくつか彼女の本は読んでいるのだけれどもエッセイは初。
ちょうどジュンク堂で彼女の本が飾ってあるセクションがあって
(彼女は鹿児島出身だったのね。というのもこのエッセイで知って、納得)
そこでなんとなくこのタイトルと、青い空と草という帯に惹かれて手に取った。
立ち読みしてみると「あ、これはゆっくりと読みたいな」と思ってさっそく購入。

このエッセイは雑誌『ミセス』に連載されていたものをまとめたもの。
(年齢的にはうちのママ年代の方たちかな)
同年代の人とおしゃべりするような気持ちで書いた、とあったけれど
梨木さんの丁寧な生活が垣間見れて、とても心穏やかに読むことができた。
草花のこととか、鳥のことだったり、彼女が小さい頃の話だったり。 
ひとつひとつのエッセイを読みながら、
なるほどこういう人だからあんな風な作品が生まれるのか、
と、妙に勝手に納得してしまうエッセイ集だった。

距離を移動する、それだけで我知らず疲労してゆく何かが必ずあるのだ。このマクロにもミクロにもどんどん膨張している世界を、客観的にわかろうとすることは、どこか決定的に不毛だ。世界で起こっていることに関心をもつことは大切だけれど、そこに等身大の痛みを共有するための想像力を涸らさないために、私たちは私たちの「スケールをもっと小さく」する必要があるのではないだろうか。スケールを小さくする、つまり世界を測る升目を小さくし、より細やかに世界を見つめる。―― 9.「スケール」を小さくする より

確かにグローバル化している現代、色んな情報が溢れていて
FacebookやらTwitterやら色んなツールですぐに世界に発信できる。
その面白さはもちろん感じているけれど、同時にそこに頼りすぎている部分もある。
まずは自分の手の届く範囲に気配りを。
梨木さんの言葉を借りるなら"より細やかに世界を見つめる"ということも大事だ。

15章に特別編として"「魔女」はきっと、直感を正しくつかう"という章があるのだけど
この章が私的にはなんだか好きだった。

もう、だめだ、と思ったら逃げること。そして「自分の好きな場所」を探す。ちょっとがんばれば、そこが自分の好きな場所になりそう、というときは、骨身を惜しまず努力する。逃げることは恥ではない。津波が襲って来るとき、全力を尽くして逃げたからといって、誰がそれを卑怯とののしるだろうか。逃げ足の速さは生きる力である。津波の大きさを直感するのも、生きる本能の強さである。いつか自分の全力を出して立ち向かえる津波の大きさが、正しくつかめるときが来るだろう。そのときは、逃げない。―― 15.「魔女」はきっと、直感を正しく使う より

梨木さんが人間関係にがんじがらめになっている子供たちにいってあげたい言葉
というのに「シロクマはハワイで生きる必要はない」というのがあった。
そこでどうしても生きていけなかったら、逃げてもいいのだよ、ということ。
でも、それだけじゃない。
いつか自分できちんと見極められるようになった時は、逃げない、ということ。
優しさとともに、たくましさを感じる言葉に、なんだか私も慰められた。


とにかく素敵なエッセイの集まりで、ひとつひとつじっくりとたのしめた。


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